2015年6月25日

「簡単に模倣できない」もの・コトへの探索の向うに

「知識」を越える伝統産業とキャリア構築

この時期、楽伝の家近く
「紫雲木」とも表される
ジャカランダが花開く
ネット社会の現実。好むと好まざるにかかわらず、
「苦労して」積み上げた知識は瞬く間に共有され、
「苦労して」作りあげた商品やサービスもすぐさま
模倣される状況にさらされます。だからといって
この状況を怖がるあまり、ネットから距離を置いて、
積み上げた知識や商品やサービスを後生大事に
抱えているばかりでは意味がありません。
創り上げたものは、共有し、ある程度模倣されなけ
れば世の中に存在したことにはなりません。

ネット社会以前に確立された職業に対する考え方も
大きく変わりはじめています。かつては、時間をかけて
知識を多く蓄えた層が、それ以外の人々に「正解」を
提供する存在として尊敬を受ける世の中でした。
しかし「ある程度教育を受けた人なら理解・運用できる
ような」知識はもう、崇め奉るような貴重なものでは
ありません。いくつかの知識の組み合わせによって
導きだされた「正解」の適用を試みるとしても、変化の
うねり激しい現実ではすでに新しいフェーズに移行して
いて、使い物にならないことも多々あるからです。
「正解」に替えて今求められるのは、試行錯誤と共にある「短期的な最適解」です。
知識は、独占なくすばやく共有され「短期的な最適解」を導く試行錯誤の単なるツール。
もはや貴重品ではなく、普段使いこなす日用品のような位置づけになっています。

普段使いの知識に変わってこれから価値が高まるもの、それは一言でいえば、ネットを駆使しても「簡単に模倣できない」もの・コトでしょう。知識ではなく知恵、なかなか真似できない商品・サービス、そこに行かなければ得られない経験などが該当します。言い換えるならば、それらが素晴らしいことは伝えられるが、素晴らしさそのものは模倣しにくいもの・コト、です。

さて、いわゆる「伝統」というものの多くは、長い時間の中でそれが「簡単に模倣できない」もの・コトだからこそ現在まで生き残ってきました。日本の伝統が最近見直されていますが、それには、ネットの普及によって、質・量ともにこれまで不可能であったレベルで世界中の情報に触れた結果、逆に「伝統」の中にこそ非常に模倣が難しいもの・コトが埋め込まれていることに人々が気づき、その価値を再発見する機運が高まっていることも影響していると思われます。

とはいうものの、生き残ってきたものが現時点ですべて「価値がある」とみなされているか?というと必ずしもそうではありません。継承されてはいるが、素晴らしさを現時点で客観的にとらえることができず、広くその良さを伝えきれていないか、もしくはかつて素晴らしかった特徴が、「今」に応えるよう鍛えられる機会のないまま、歴史的な「遺物」と認識されるに止まるものも散見されます。

ここで「伝統を担う産業」について考えてみると、「簡単に模倣できない」知恵やノウハウが埋まっているからこそ伝統産業の継承にはコストがかかってしまいます。知識の総合による「正解」を越え、「短期的な最適解」も時々刻々クリアする普遍的な価値を継承するためには、それなりの投資をしなくてはなりません。投資を確保するには、伝統産業といえども「誰のために何であるのか?」ということを明確に、高い独自性を保つよう常に再構築された結果、模倣性が低い、ということが独特の方法で発信できており、お届けしたい人々に継続的にリーチすることだろうと思います。そのように考えてみると、今まで残ってきた伝統産業品であっても、伝えるに値する価値を見極めて発信し続けなければ、その存在が危ぶまれます。残念ながら、事実、一部はすでにそうなっています。

「簡単に模倣できない」もの・コトの魅力に注目し、進むネット社会の情報共有形式の中でその良さをどのように発信するか、進化を探索する―そうした試みも、楽伝なら「伝統」だからと言って大仰に構えず肩肘はらず「楽しく」取り組めるのでは?として一部関わっているのが、震災でその基盤が失われた大堀相馬焼の復興をサポートするプロジェクトです。その取り組みについては一部、前回のブログでご紹介しました。

長い時間をかけて育まれるもの ― 伝統産業だけではなく「われわれ人間自体」もそのような存在です。世の中の動きが早くなったからといって、人間の成長スピードがそれに追いつくわけではありません。母親の胎内にいる期間は依然として10か月。生まれ出でてもすぐには歩けません。成長させるには衣食住・教育等、長期の投資が必要です。これは太古の昔から同じです。

社会で生き延びるための態度変容と行動変容が幾度となく迫られる今後を見据え、キャリアを拓くというテーマに関わる楽伝が、「簡単に模倣できない」知恵やノウハウが埋まっている伝統産業とその発信のサポートに一部関わっている理由はこんなところにあります。

人間が作った社会の変化が激しくなったとはいえ、未だ人間は生物としての在り様自体を劇的に変化させることはできません。この認識の上で、我々は激動する社会に向けて発するあなたの発信をサポートしようとしています。変化の激しい時代に「波に乗りながらも流されない」生き方、つまり、今日明日を生き伸びる「短期的な最適解」を求めるだけでなく、太古の昔から生物としての成長スピードを変えられない存在であることを所与の条件とし、「模倣のできない固有」の存在としてのキャリアを構築し続けるための知恵を、「簡単に他人になることはできない」あなたと一緒に考え、見出していきたいと強く願っています。

理事長 西道広美 拝

2015年6月11日

伝統工芸品の場で伝版®を活用いただきました

ご縁を耕し、多彩な視点を“ひきだし、ひもとき、くみたてる”

気持ちや考えをひきだし、ひもとき、くみたてるためのグラフィックシート「伝版®」。
今回は伝統工芸品に関わる場での活用例をご紹介します。

今年3月、福島県の伝統工芸品「大堀相馬焼」に関わる24名様が東京・銀座に集いました。
「大堀相馬焼」は、福島県の浪江町(なみえまち)に元禄時代から300年続く、経済産業省指定の伝統工芸品(陶器)です。東日本大震災に伴い生じた原発事故で、産地は立入禁止区域に。
生産の拠点・原材料となる土・既存の販売チャネルを失いました。

 “これまでの土は使うことができない”
 “これまでの土地では作ることができない”
 “これまでのような製作のための共同体はない”
 “これまでのような販売先はない”

伝版®「木」を使って“ご縁を耕す”
ゼロ状態から再起への挑戦です。
窯元の1つ《松永窯》の4代目松永武士さんは発想を転換し「これまで通りは不可能」な現状を、「これまで以上」を目指す機会ととらえ、様々な分野の専門家を巻き込み、3年にわたりチャレンジを重ねてきました。成果の1つ、
誕生したブランド「KACHI-UMA」では、ファッションデザイナーやインテリアデザイナー、イラストレーター、建築家、テキスタイルデザイナーなど様々な分野・10人のクリエイターの協力を得て、今まで大堀相馬焼を知らなかった都市部や海外の人々にも選ばれる成果を挙げました。


この日は東日本大震災から4年の節目に「持続可能な発展への報告&発表会」と題し、それぞれの
専門の立場から力を貸してこられた皆さんが、松永さんの呼びかけで初めて一堂に会しました。

24名様のお顔ぶれはなんとも多彩です。

《使い手》湯呑みや酒器、お皿を買い、使うことで応援してきた方
《届け手》商品が“販売”されるよう協働してきた流通の方
《伝え手》再生への取り組みを人々に周知したマスメディアの方
《再生の仕組みの支え手》情報/人材/資金調達等の助言をした行政や中間支援団体の方
《作り手》再生への新ブランドの1つ“KACHI-UMA”に協力したクリエイターの方


どなたも4代目窯元の松永さんとは懇意ながら日頃は異なるフィールドにおられ、皆さん同士の多くは初対面です。『このひととき“ありがとうございました”“よかったね”と感謝・祝福するに止まらず、多彩な皆さんで創造的な交流を楽しんでいただきたい!』との松永さんの願いからワークセッションに伝版®を活用いただくことに。楽伝理事の柴山と山本もお手伝いさせていただきました。

さて、会の半ばCOOL JAPANIDEA BOOSTと名付けられた、大堀相馬焼のこれからを拓くアイディアを探索するセッションが始まりました。

◆伝版®「木」で、ご縁を耕す
セッションは90分間。多彩な皆さんの“ご縁を耕す”ワークからスタートです!4つのグループでまずは各自、伝版®「木」に4つのことがら(自分の好きなこと・大切にしていること・これから挑戦したいこと・これからの大堀相馬焼に期待すること)で自分を表現していただきます。

アイディアたちを伝版®「花」へ
続いて「木」を共有しながらグループ交流へ。どのグループもお互いにあまりよく知らないフィールドで活動されているお顔ぶれ。自己紹介も「話せば長い話」になるところですが、自分のありようを「木」に表して語ることで 、職務や活動内容に止まらず、信条や想いが短時間で豊かに共有されます。

◆多様な視点を引き出し、
 伝版®「花」でひもとき、くみたてる
グループの温度が一気に上がったところで、テーブルには大きな伝版®「花」が登場!
“しかけづくりのネタさがし”と題し、いよいよ大堀相馬焼のこれからを拓くアイディア創出ワークです。

 “これまでの延長線上で考えるのでなく、発想の転換がいるよね。ちなみにファッションでね、
   歴史に残るトレンドが誕生したときって・・・”
 “やっぱり「お寺」が肝心じゃないかなぁ・・・”
 “そういえば島根の酒造メーカーさんの話なんですけどね・・・”
 “日本から海外なのかなぁ。海外から日本は?”
 “卸として様々な産地を訪ねていますが、職人さんが‘手びきの’ろくろで一つひとつ作って量産
    するって稀少で本当にすごいこと!でもその価値、意外と自覚されていない・・・”
 “たとえばドバイの見本市って・・・”
なるほど、あっちとこっちのアイディアを
つなげるとおもしろい?!

 

異なる専門フィールドに身をおくメンバーの集まりならでは!思いがけない発想、情報、知見が飛び交い、なんとも刺激的です。
あちらこちらでどっと笑い声も。

一見脈絡がなさそうなことがらも、とりあえず伝版®「花」の6枚の花弁や余白におとしておきます。
だんだん、あちらの花弁とこちらの花弁につながりが見えたり、違いがはっきりしたり。共通するキーワードが浮かぶこともあります。

“しかけづくりのネタ”が育ったのちは、アイディア実現に向け、皆さんにお力添えいただけることを掘り起こすディスカッションへ。

やがて伝版®「花」には“しかけづくりのネタ”と、実現への手がかりがいろいろに!
各グループが発表するうちにアイディアのヴァリエーションが増し、いろいろな化学反応が今にも生じそうです。そしてなにより、皆さんがとても楽しそうです。
ちなみにセッションを終え、大堀相馬焼のぐい吞みでいただく、浪江町にゆかりの地酒・鈴木酒造さんの磐城壽(いわきことぶき)」もひときわのおいしさでした。
 
松永武士さん・大堀相馬焼《松永窯》4代目窯元のコメント
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中央:松永窯4代目窯元・松永武士さん
“今回集まってくださったのは、大震災からのとても厳しい時期に大堀相馬焼に関わり、それぞれのお立場から多様な専門性を惜しみなく注いでくださった方々です。そのことに深く感謝するとともに、なかなか一堂に会する機会のない皆さまに“つながって”楽しんでいただきながら、さらなるイノベーションをご一緒に模索したかったので、その目的を果たせてとてもうれしく思っています。”

“大堀相馬焼はまだ再生を始めた段階です。「ゼロからの再生」に留まらず「持続可能な発展」を実現するには、国内外の新たな「使い手」を想定し、これからを生きる人々に愛される伝統的工芸品のありようを模索する取り組みが欠かせません。「取り組みを支える人」を育てる仕組みや環境を整えることも大切だと考えています。皆さんと探索した“しかけづくりのネタ”を大いに活用し、実現していきたいです!”
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楽伝は、大堀相馬焼のさらなるチャレンジを引き続き応援していきます。
ところで“なぜ、楽しく伝える・キャリアをつくるネットワーク(楽伝)が伝統工芸品の大堀相馬焼を応援?”と不思議に思われるでしょうか。それについても近く、ひもとかせていただきます!


楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性に満ち、変化の激しい現代社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。

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