2015年10月22日

「異物」に自らをさらす体験、そのあとに。

体験学習の在り様に想いをめぐらせながら

3か月ほど前、夏が始まる頃に楽伝の本拠地・黄色い家に参集した若者たち―関西と福島の学生を中心とする「ふくしま福光(ふっこう)プロジェクト」による「SOMATOワークショップ Powered by Rakuden」参加メンバーが、秋の気配が色濃くなってきた黄色い家に再び集まってくださいました。楽伝・吉田がご一緒して、この3ヶ月の活動を振り返り、「伝統工芸」と「自分自身」という2つの「これまでと今後」について考えるSOMATOワークショップ総括編の開催です。


伝版®にもすっかりなじんだみなさん。
「川」で内省する《コレマデ》
せっかく楽伝の黄色い家で《コレマデ=来し方》と《アシタ=未来》を考えるのならば、SOMATOワークショップ1回目2回目に続き、今回も伝版®でまいりましょう!
今回はこの3ヶ月を内省した《コレマデ》を伝版®「川」にてかみしめていただき、「伝統工芸」と「自分自身」の《アシタ》を伝版®「種」に広げて考えていただくことにしました。

◆「川」で内省する《コレマデ》
「川」の伝版®では、この間に福島で伝統工芸・伝統文化にふれた体験やそこで出会って向き合った人々とのことのみならず、ご自身の日常生活での できごとも内省していただき、3ヶ月の間に新たに生まれた自分の気持ち、一方で以前から変わらず持ち続けている気持ちなどを言葉にしていただきました。
皆さんの発表をうかがうと、福島の企業のインターンシップに参加したこと、バイトやサークル活動にまるで川の流れに乗るように携わったこと、新しく始めた仕事に忙殺されたこと、力の限界を見極めていったん関西で就職することに決めたこと、研修旅行でフランスに行ってひたすらワインを飲んだこと、改めてCivic Pride(地域に抱く誇りや愛着)について考えるようになったこと、別れがあり出会いもあったこと等々。この3ヶ月間のお一人おひとりの体験、そしてそこに生じた気づきや想いが、誠にバラエティに富んでいることに驚かされました。
 
◆「種」で見通す《アシタ》
「種」で見通しかけている《アシタ》を語る
来し方を振り返ったあとはいよいよ未来へ。
この3ヶ月間の経験を経て、明確に《アシタ》につなげたいと思うこと、何か自分のなかで心にざわつきを感じたものの、そのざわつきの輪郭がはっきりしないまま《アシタ》に持ち越したいものなどを、「種」の伝版®に書いていただきました。

◆「異物」に自らをさらす“体験”こそ
ところで、思えば我々が生まれてこのかた身につけてきた、所属グループ・地域・社会・文化といったものに由来する「型(固定観念に基づく態度)」と、その「型」から生まれる「癖(固定観念に紐づく行動習慣)」は意識できないレベルで内在化されています。ゆえに我々が「自分」について考える際は、ひたすら自分だけに向かい、自身の頭や心や身体をのぞき込む時間も大切である一方で、自分と異なるグループ・地域・社会・文化の刺激(あえて「異物」と呼ぶことにします)に自身をさらす新たな“体験”をすることにより初めて、自らの行動や想いを相対化して位置づけ、俯瞰することが可能になります。ある種の「異物」に触れることで可能になるこの俯瞰作業によって、自身の来し方を礎に、《アシタ》をデザイン、あるいはRe-デザインし、少しずつ新しいページをめくることができるようになります。

ちなみに「異物」を内在化までする“正しい体験学習を自ら実践できること”は1つのスキルであり、磨きうるものです。SOMATOワークショップ参加メンバーは、伝統工芸という、自分の日常からすれば決定的に新たな“体験”を重ねて触れた「異物」たちを「川」の伝版®を通じて内在化する工程を経験したことで、この3か月間に並行してSOMATO以外で“体験”したできごとについても「異物」を積極的に見出し、俯瞰することがしやすくなられたかもしれません。

◆焦らずに吟味する
さて、新たな“体験”で得た「異物」は、なんといっても『異物』ですから、たとえ良い刺激であったとしても、それらを活用するにはちょっとしたコツが必要だと、楽伝は考えています。
たとえば、この3か月間のたくさんの新しい“体験”で得た「異物」が、《アシタ》の自分にとってどのような意味を持つのか、その「異物」をどのように内在化することで自分の《アシタ》をデザインあるいはRe-デザインするかは、すぐに答えの出るものではないでしょう。もしかすると「異物」のまま飲み込んで、そしてしばらく経ってから吐き出すしかない、結果として役に立たないとの結論になるかもしれません。ただ、慣れ親しんだ世界では触れることのできない、せっかく触れた「異物」ですから、どのように自分の役に立つのか、新しいページをめくるのに必要なものかどうか、あえて焦らずに一つひとつ吟味することが大切でしょう。皆さんが折に触れ、この日の「川」「種」を見返し、書き足し、《アシタ》探索に活かされることをオススメする楽伝でした。

《アシタ》に向かって!
3ヶ月にわたった2015年夏のSOMATOワークショップはこれで本当におしまい!「種」の伝版®に書かれた“輪郭のはっきりしているもの/していないもの”、そのどちらとも、自らの新しいページにつながる可能性のあるもの(種)として、大切にお持ち帰りいただきました。
さてさて、お一人おひとりが飲み込んだ異物の種が、これからどのように変化していくのか?
それは楽伝の密かな楽しみとして。
 
 

*楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。
 
 

2015年10月8日

キャリア教育、求められるは“学びほぐし”

日本心理学会第79回大会、発表を終えて

シルバーウィークの後半9月22日(火)から3日間にわたり、日本心理学会第79回大会が愛知県名古屋市(名古屋国際会議場)にて開催されました。楽伝は、最終日9月24日(木)に《一般研究発表:ポスター発表》と《チュートリアルワークショップ》を実施致しました。

チュートリアルワークショップで
“転換ワーク”を体感いただく
今年の楽伝発表テーマは「大学生のキャリア開発における自己能力発見過程」。

ファシリテーションにおけるグラフィックツールの使用効果について「伝版Ⓡ」を体験いただきながらご紹介した昨年第78回大会での発表からさらに進め、4年制大学のキャリア教育講義で行われた“転換”ワークショップの模様を分析し、発表致しました。
 
《一般研究発表》に続き、11時40分より《チュートリアルワークショップ(2部構成、合計80分間)》を開催し、楽伝理事長の西道広美、理事の山本由紀子がご一緒させていただきました。

教育機関でキャリア教育に携わる先生方を中心に、さまざまな立場からキャリア教育に関わる専門家の皆さまに出会い、ご関心を頂きました。

多様なキャリア教育の現場にあって、学生・生徒さん、保護者の方々、教職員の方々を巻き込み、キャリア開発に資する学外の専門家や専門組織との連携を模索し、学生・生徒さんがキャリア開発力を養う環境づくりをされている先生方のご意見を伺い、大いに刺激をいただきました。    

◆第1部:若い世代のキャリアをどう考えるか?
理事長・西道より、楽伝が提供するプログラムが前提としている「これから社会に出る若者が直面する激変した社会でのキャリアの在り様」、すなわち、あと30年ほどで実現するといわれる「シンギュラリティ(技術的特異点)」到来の影響も視野に入れ、従来とは異なる視点を要する『キャリアの“アシタ”』について、楽伝の考えを共有致しました。

続いて、キャリア教育現場における学生側の課題として「自尊自立・自己駆動力が弱い」「論理的思考やコミュニケーション能力が弱い」といった声があり、一方、運営上の問題として「『気づき』を促進するための教育内容や場面づくりの工夫が不十分」という声がある現状(「大学におけるキャリア教育のあり方(平成17年社団法人国立大学協会)」より)をふまえ、これまでの教育に“加えて”求められる、変化の激しい社会を見据えた教育プログラムを支える要素(=必要なモノ・コト)について、これからのキャリア形成に欠かせない4つの態度と2つのスキル『6Cpowered by Rakuden等をご説明致しました。

◆第2部:自己能力発見過程“転換ワーク”
転換の促進をサポートする
“ネイル”などの《転換例》
楽伝理事・山本由紀子がファシリテータとなり、『6C(powered by Rakuden』の中でもキャリア教育でのワークショップ的体験(行動)を通じて力をつけていくことが重要かつ可能となる「行動に関わる2つのスキル:《他者との協働》と《転換》」に焦点をあて、実際に大学等教育機関で実践している“転換ワーク”の一部を皆さまに体験いただきました。

この“転換ワーク”の実際にご関心があってのご参加が多かったようで、面識のない2人組になっていただいてのひとときながら、
皆さま熱心に没頭いただいておりました。

求められるは“学びほぐし
今大会中に出会った方々から幾度か伺い、印象深かったお声の1つに「(現場を)振り返ってみると、私たちは“もうある/もう持っている”ことを前提にしすぎているなぁ、と感じました。」というものがありました。

たとえば「自分が好きなこと」「自分がわくわくすること」といった《好奇心の対象》から、「夢」「なりたい姿」「ありたい姿」といった《ビジョン》まで、そうしたものは学生・生徒さんそれぞれがすでに自身の中に“持っている”はずで“顕在化しうる”という前提に立ってしまっている、ということでした。

その背景には、《好奇心の対象》から《ビジョン》まで、それらを耕す方法=自ら意識化・顕在化させることが難しかったり辛さを伴う作業であるような、個人の奥深くにあるものを“学びほぐす”手法を提供することが容易でないという現実もあるようです。

《一般研究発表ポスター》
“転換ワーク”を含め、伝版®を活用した、楽伝の一連のキャリア開発プログラムで重視しているのは、まさしく、そうした自分の内面を《他者との協働》も通じ“楽しく楽(ラク)に”発見し、表現していくことの応援ですが、この日は、“学びほぐす”を応援していくことの重要性と必要性を改めて実感させていただきました。

【ご参考】
「楽しく楽(ラク)に!伝版®開発の背景」コチラ

さて、こうした場を通じて多様な専門家の皆さまからご意見をいただき、交流させていただくことで、楽伝は、現在の取り組みの質を俯瞰するとともに、将来のキャリア教育の現場でお役に立つ視点・情報・プログラムの在り様について、仮説検証したり、発見させていただいています。

おかげさまで昨年同様に、大会を終えたこれからの時期にますます元気になりそうな楽伝です。
 
楽伝は、激変するであろうキャリアを取り巻く環境から目をそむけず、伝えあう力を信じ、人生をひらく「個」を応援するという視点で社会に貢献するNPOとして、今後ともキャリア教育・キャリア開発等の在り様を問う場における発表活動を含め“発信”を行ってまいります。
 
*楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。

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