2017年3月16日

共同研究:韓国の大学における日本語専攻者のライフキャリア支援と伝版®ワークショップの可能性

言語文化教育研究学会第三回年次大会@関西学院大学上ヶ原キャンパス

小松麻美先生、共同研究の打合せにて
@楽伝の拠点・黄色い家
20172 25 日(土)~2 26 日(日)、言語文化教育研究学会第三回年次大会が関西学院大学上ヶ原キャンパス(兵庫県西宮市)にて開催されました。

「言語教育」というものがたいへん広い領域を含むなか、言語文化教育研究学会は「ことばと文化の教育とは何か」「ことばと文化の教育を研究するとはどういうことか」について、教育現場に根差した議論を積み重ね、ことばと文化の教育の実践=研究の充実をはかることができるよう、多領域にわたる横断的連携に力をいれています。


その第一日目に、楽伝と共同研究を進める
小松麻美先生が発表を実施されました。
小松先生は現在、韓国・蔚山大学(ウルサン・蔚山広域市)日本語日本学科で教鞭をとられています。学生たちの生涯発達に力を与えるものとして「語りによる学習(ナラティブ学習)」を重視し、周囲に日本語環境のない中で“日本語で話す”ことになる韓国の大学における日本語専攻科目を、学習者一人ひとりの生涯発達を促進する「語り」を引き出す絶好の機会と捉えておられます。

今年度の研究では、学習プログラムの効果促進に向け、「伝版®」を学習ツールとして採用し、語学スキルとしての日本語能力に留まらず、語学や文化への興味を入口として、より包括的に将来の自分像を抱く動機付けを行う学習プログラム設計のあり方を吟味されてきました。

◆ライフキャリア支援の必要性
伝版®「川」への学生の記述
(ハングル版)
小松先生がこうしたライフキャリア支援の領域に注力されるのには、韓国の大学生が卒業後に身をおく社会環境の現状があります。

スキル重視の教育が進むかたわらで、韓国の大卒者就職率は54.8%(2014年現在)と、若年層の就職難は深刻です。2017212日の朝鮮日報では「今年から2019年までに4年制大学を卒業する若者は史上最悪の『就職氷河期』に直面する見通し」とも。また、若年層の約63%(244万人以上)が、初めての(1回目の)就職先を13カ月で離職するといいます。

こうした不確実性のなかで仕事・家庭・余暇を含め、いかに充実した人生を築いていくか?ライフキャリアを自ら設計し、生き抜いていく力こそ必要性が高まっています。

日本語科目における支援としても、ビジネス日本語や日本語能力試験対応に留まらない、自己における日本語学習の意味づけや自己理解を促進するー就職だけでないライフキャリア全体への支援の必要性が高まっています。

今年度の研究では、日本語専攻の4年生を中心とする17名の大学生を対象に、日本語専攻を活かした就職活動の準備とライフキャリア支援として「伝版®」をワークシートとして使った授業(ワークショップ形式)を実施し、学生による「伝版®」への記述を分析し、日本語科目におけるライフキャリア支援の可能性を検討しました。

◆「伝版®」への記述の考察より
取り組みをふりかえっての
学生のコメントより
従来のライフキャリア支援においては、「将来の自分像についてイメージがしづらい(書くことが進まない)」あるいは「日本語という専攻のみに特化した将来の自分像を描く」ことが一般的でした。
今回、受講者の「伝版®」への記述からは受講生の伝版®「川」「花」「木」「発芽」への記述を分析したところ、海外でのキャリア系日本語科目で「伝版®」を用いる意義について、「伝版®」の活用により次のような変化がみられました。

・多様な選択肢に目をむけてキャリアビジョンをイメージしやすくなっている。
結果として、多くの受講生が専攻を足掛かりにしつつもそれのみにとらわれず、包括的に将来の自分像をイメージしてキャリアビジョンを描いた。

・ゆるやかに取り組むことをゆるしながら、具体的な行動を促進している
結果として授業のなかで、例えば「資格取得という短期目標を中長期的展望のなかで位置づけなおす」といったように、「中長期的な展望を持ちながら第一歩行動を具体化」できる受講生が多くみられた。

・前記2点が示すように、受講生一人ひとりのライフキャリア支援を目指すことが、個別指導ではなく、「教室活動」として複数人を対象とした学習環境でも実施可能になる。

発表には、言語習得、異文化間コミュニケーション、日本語教育などの専門領域の方々、20名様ほどが参加され、具体的なご質問やご意見を頂戴しました。

◆「伝版®」を使用することの効果とは?
楽伝では今回の、韓国における大学でのキャリア系日本語科目での考察を受け、我々がこれまでに国内のライフキャリア支援の場でのフィードバックから確認した「伝版®」使用による6つの効果(※)と照らしあわせ、概ね一致していると考えております。
※楽伝が携わったライフキャリア支援の場での「伝版®」の使用に関するフィードバックのコメントを整理した結果、「伝版®」を使用する効果として指摘を確認した。(西道広美・吉田純子・西道実(2014).ミュニケーション教育に資するグラフィックツールに関する研究

《「伝版®」使用による6つの効果》
1)「考え」を「はじめる」ことを促進する
考えることをはじめにくいのは、その端緒を見つけにくいことに起因する。「伝版®」は、自然のモチーフをメタファーにしたフレームを与えることによって、そのフレームにそって無理なく考えはじめる(自分自身とコミュニケーションする)きっかけを提供する。

2)作業に楽しく取り組める
「伝版®」は、難しさを感じたり、深まりにくかったりする「自己探索」のプロセスを、見ているだけでも楽しくてきれいな自然のモチーフからなるグラフィックシートにより、「より楽しく」「より楽に」進めやすくする。つまり、「自分」をひきだし、ひもとく作業を促進する。

3)自己肯定感を醸造する
自分の中に浮かんだものを「伝版®」に書き出して確認できることで、これまでや今の自分を祝福できるようになり、自己肯定感が育まれる。

4)次のアクションを動機づける
「伝版®」を書き終えると、仕上がり感が小さな達成感となり、次の課題(ビジョンづくり)への動機づけとコミットメントが高まる。

5)コミュニケーションを円滑にする
「伝版®」に書き込むことで、自分自身との対話を促進するだけではなく、書き込まれた「伝版®」を紙芝居のように用い他者に説明することで、書き込んだ内容は話しやすくなり、結果、他者との交流が短時間で活発になる。

6)(チーム)他者からの学びをスムーズにする
同じフレームなのに、異なる内容が書かれた他者の「伝版®」に触れることにより、他者との交流が深化し、学びが起動しやすく、その結果、自己探索もいっそう深まりやすい。

さて、日本語はいま、137の国と地域で365万人以上の人々が学んでいるそうです(2015年現在.独立行政法人国際交流基金調べ)。地域、文化、言語、性別、世代などバックグラウンドを問わず、ユニバーサルに活用いただけることを重視して開発された「伝版®」が、多くの人々の「生きやすさの実現」にお役立ていただけることを願い、今後とも楽伝は、教育現場において学習プログラムの効果をひきだすことの促進を目的とした「伝版®」の活用について、多様なフィールドの専門家の方と共同研究を行ってまいります。

【参考】教育現場における伝版®の活用の一例
>>韓国・蔚山大学での日本語学習者支援

   (大学2~3年生キャリア科目にて)



*楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。

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