2015年1月22日

“生きる力を育む”体験学習をめざして

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンターの取り組み

ヒト・モノや実社会に触れ、かかわり合う体験をきっかけに、自ら学び考える「生きる力」を育むことをねらう“体験学習”。子どもたちの教育現場はもとより、社会人の研修や生涯学習においても歴史ある学習形態として普及しています。「体験」を、知識・情報などを獲得する手段やひとときの感動に留めず「生きる力」につなげるには「体験」を「学び」に“転換”させる工程が必要であり、志ある教育者の方々は創造的工夫に心を砕かれています。

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(以下WAVOC)は“体験の言語化”の支援を掲げ「体験」を「生きる力につながる学び」に転換するプログラムの研究開発に力を入れる教育機関です。楽伝はWAVOCが2013年度に展開した教育プログラム「グローバルセミナー:新興国(BRICs)で働きたいあなたへ グローバル・キャリアへ向けたアクション・プラン」に続き、今年度は海外体験実習科目「インド~白い革命から学ぶ途上国の農村開発」において、インド実習(上、写真)の前工程と後工程での内省を促進する目的で、伝版®を用いたプログラムを取り入れていただいています。
 
[参考]2013年度「グローバルセミナー:新興国(BRICs)で働きたいあなたへ」での伝版®活用
       セッション1.「自分を知る:夢のたな卸し
       セッション2.「ビジョンを描く
       セッション3.「いよいよなりたい私へのアクションプラン創り
 
本科目ご担当の秋吉恵先生(WAVOC助教)に、楽伝理事・山本由紀子がお話を伺いました。

山本:インド科目の履修を通じて学生さんたちに何を期待されていましたか?
秋吉先生、山本楽伝理事

秋吉:5年目になるこの科目では一貫して“社会と関わる上での自分の立ち位置を見い出す”ことをテーマにしてきました。インド実習をしたという実績や英語のスキル、スマートなレポート作成のスキル等の獲得でなく、半年間の体験全体を通じて「生きる力」を養ってほしいと考えています。
 
山本:「生きる力」とは、例えば、自分自身の価値観の一端を理解し、言葉で自分のことを人にわかるように伝えられる力とか、自分と異なる価値観があることを前提として他者と関わることができる力ですね。
 
秋吉:そうですね。「インド農村」では、異なる価値観を持つ人々と出会いますし、逆に全く違う生活をしている人でも同じような価値観を持っていることに気がつくこともあります。こうした体験によって、自分の考えや行動を支えている価値観を一部でも理解するとともに、その価値観を大きく揺さぶられもします。社会に出ると学生時代以上に、様々な壁や他者とのコミュニケーションギャップにぶつかる機会が増えますよね。そんなときの、ストレス耐性が高まるというか、生きていく力につながっていくと考えています。

山本:そうした目的をもつインド科目で伝版®を活用いただいたねらいを教えていただけますか。
 
秋吉:これまでの4年間も各種のワークシートを工夫し、対話や交流を重視し、履修学生の内省が深まるよう働きかけてきました。しかし、例えば対話ではときに本人の価値観に紐づく関心や興味より、聞き手側の問題意識があるところに焦点があたり易かったり、交流では発信力の高い学生の振り返りに重心が寄りがちであったりする難しさを感じていました。そこで今回は、履修動機の掘り下げや、実習後の振り返りなどで、伝版®の力を借りました。そうしてみると比較的効率よく、内発する思いが本人の「言葉」として深まり、結果としてメンバー全員による交流が促進され「(同じ場面でも)こんな風に感じる人もいるんだ」「こう考えてもいいんだ」などと、問題意識が深まったように感じています。
 
帰国後の報告会。ドラマ仕立てで
気づきを発表する履修学生
山本:なるほど、個々人においてと、集団で問題意識を交流する場でともに影響があったようですね。今年度履修生による最終報告会を終え、成果をどのように捉えていらっしゃいますか。

秋吉:必ずしも100点満点でないかもしれませんが「自らの立ち位置を見出す」という点ではいい線まで来たと思います。学生たちは体験を仲間と反芻して得た思いを「もやもや」と抱えている状態ですが、今、達成感を得るより、まだもやもやしている位の方が考え続けるインセンティブになるでしょう。得た思いを行動に移すことは履修過程で完結するものでなく、「もやもや」を良い意味でもったまま社会に出て、感じて考え、決断していくことも大事ではないかと考えているところです。
 
山本:今年度のご経験をもとに、体験学習科目における「体験の言語化」の促進に向けてどのような取り組みをご予定ですか。  
 

発表を熱心にみつめ、
   耳を傾ける学内外の皆さん
秋吉: 今後も伝版®も含めた様々なチャレンジをしながら、学生たちが、模範解答探しを習慣にするのではなく、本当の意味で成長し、社会に出た後も能力や個性を発揮できるような「力」を育むのが大学教育の役割だと考えています。

山本:本日はありがとうございました。楽伝のキーメッセージは『つたえあえば、人生がひらく』です。学生さんたちが人生をひらいていく力を育む過程を今後とも伝版®プログラムを通じ、私どももお手伝いをしていきたいと願っています。

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)
平和をテーマとする作品を描くとともに、平和ボランティア運動として世界の文化遺跡保存にも尽力した画家、平山郁夫氏(早大名誉博士)の意志を受けて2002年に設立された早稲田大学の一機関。ボランティア体験など、学生の体験を学びやキャリア形成に活かす教育研究開発を進める。ボランティアや実習の前、及び後の工程における質の高い内省を促進し、ボランティアや実習の「体験」を、学生がその時限りのイベントに留めず、自らの生き方・社会との関わり方につながる意味を見出すことを支援する。12年間で学生14万人以上(海外ボランティア3300人を含む)が学ぶ。その活動が評価され、先進的な学びの取り組みを応援する「第1回朝日みらい教育賞」にて、グローバル時代に生きるための力を重視した教育を表彰する「グローバル賞」受賞がこのたび決定した。

*楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性に満ち、変化の激しい現代社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。

2015年1月8日

年始のご挨拶


新年あけましておめでとうございます。楽伝は1月5日(月)、新しい年のスタートを迎えました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

新年早々、狂言師、野村万作・萬斎親子による、「三番叟(さんばそう)」の眼福を得ました。この舞の最後は「鈴ノ段」と言われ、「黒式尉(こくしきじょう)」と呼ばれる黒い面をつけた翁が、鈴を打ち鳴らしながら最初はゆっくり、終盤は勢いを増して舞い納めるものです。この鈴を打ち鳴らす様は種まきを意味していると言われ、五穀豊穣を祈る舞として、また年の初めとしてふさわしく荘厳かつにぎにぎしいものでした。

さて、我々法人の名前は「楽」で始まりますが、この字の上半分は、柄のある「手鈴」の形で、鈴の左右に糸飾りをつけている形で、下半分の木という字はその鈴を掛ける台をあらわしていると解説されています(白川静「字統」より)。


「三番叟」の演目の間、息のあった狂言師親子の持つ「手鈴」、これが「楽」の字の原型なんだなとイメージしているうちに、ある強い思いが浮かんできました。
昨今、「変化」という言葉を目にしない日はありません。生存のために安定した環境を求める生き物である我々は、その「変化」のレベルが大きいと認識すると、本能的に生存への「不安」がかき立てられます。できれば変わりたくない、安住したい。しかし先憂後楽のための準備を動機付ける程度の「不安」ならばプラスに働くでしょうが、過度の「不安」には思考と行動が委縮します。そこまで「不安」に支配されてはいけません。

 
変化」についてこう考えてはどうでしょうか。「変化」の時代の今は、鈴を打ち鳴らすように、種まきをする時期。そして、芽を出すことに心を込めて「期待する」。折しも、今年は未年。未年の「未」という字は枝葉の先が長く伸びてゆく形のことをあらわしているそうです。伸びた先がこれからどうなるのか、という結果は「未だ」わからない。そのわからぬ結果ではなく、まずは物事を始め、動かすことを重視する。種はまくが、芽が出るか・花を咲かせ結実するかどうかについて「今は」問わない。つまり、「不安」が根底にあることを否定しないが、「不安を期待の裏腹」と考え、前に進めるための力に転換できるよう心と頭と身体を使う。ただし、
これには大変なエネルギーがいります。
 

手前勝手な解釈ですが、「不安と期待がないまぜ」になっているからこそ、祈りを込めて種まきを舞う、それが「三番叟」という舞の核。クライマックスとなる鈴ノ段の激しさは大きな「不安のエネルギーを芽生えと成長への期待に昇華させる」プロセスを表現しているように思えました。「不安を期待に昇華させること」、これは人が生きていく上で繰り返し経験する普遍的なエネルギーの転換であり、それを表現しているからこそ、この舞が古来より幾度となく舞われてきたのであろうと。

大きな「変化」を前にすると正直、私も「不安」に足がすくみます。しかし、まずは鼻唄でも歌って気持ちをリセットし、まずは「種まきから始めよう」と心を奮い立たせてみましょう。そして常に「不安」があることも意識しつつ、それが芽生えへの「期待」の裏腹であることを認識して、自分が撒いた種に集中し、「芽が出るように心をこめて慈しみ楽しみながら育てる」というプロセスそのものに焦点を合わせましょう。きっと、「何かが変わってくるはず」。そのプロセスを一度ならず繰り返していると、その足跡となる円は、ふしぎなことに最初の場所から少しずつ場所を変えて描かれ、ふと振り返ると螺旋のような形になっていることでしょう。この「螺旋形の軌跡こそが成長」というものの本質。

本年、我々はそんな思いを胸に「変化に対する不安を、楽しみというエネルギーでプラスに転換し、発信しあう自己」を応援する存在として、「つたえあえば、人生はひらく」を実感していただけるような取り組みに精進してまいります。

鈴の音に空間が嬉しそうにふるえる、そんな未年のスタートを楽しみつつ。 

理事長 西道 広美 拝

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